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2019.07.17

【イベントレポート】丸の内アナリティクスバンビーノ#18 「マーケティング新時代はじまる!~大手企業各社のデータサイエンス利活用最前線~」

丸の内アナリティクス主催のミートアップイベント、バンビーノを開催しました。
 
第18回となる今回のテーマは、「マーケティング新時代はじまる!~大手企業各社のデータサイエンス利活用最前線~」。
データとマーケティングを軸に、業界の異なる3名のゲストから、これまでやってきたこと、今後の展望について語っていただきました。
 
今回のレポートでは、その一部をご紹介したいと思います。

日本テレビが取り組んでいく3つのデータ活用と今後の取り組み

日本テレビ放送網株式会社
ICT戦略本部 データ戦略ディビジョン
ディビジョンマネージャー 川越 五郎 氏
 
一人目のゲスト、日本テレビの川越氏は、ウェブエンジニアとしてのキャリアを持ち、中途で日本テレビに入社してから約6年間動画配信技術に携わり、2018年からデータ施策に携わっていらっしゃいます。
 
それまで様々な部門で行なっていたデータに関する取組みを一所に集約し、データの専門部署として「データ戦略ディビジョン」ができたのが2018年。川越氏はゼロからの立ち上げに携わってきました。
 
自部門だけでなく全社的なデータ活用に取り組んでいくにあたって必要なのは、やはり社内の理解ではないでしょうか。日本テレビでデータ組織がその取組みの幅を広げてきたのは、まず「データ戦略ディビジョンとは一体何をやっている組織なのか」を社内へ積極的に働きかけてきたという地道な努力があってこそ。
 
非専門職の人に対して、難しい専門用語で説明しては伝わるものも伝わりません。 川越氏は「データですべてを楽にする」というメッセージを作り、わかりやすい言葉で発信していくだけでなく、スピード勝負で常にアウトプットを出し続けることにこだわり続けたと言います。
 
この1年は、データの収集や可視化に加え、社員の業務効率化や、動画広告のセールスにデータを活用してみるなど、データの有用性を社員に体感してもらうことに注力してきたようです。
部署の立ち上げから1年が経過し、本格的に分析に取り組んでいくフェーズに移行するにあたって、川越氏は、テレビのデータの難しさを「収集も紐づけも難しい」点にあると語ります。
 
今回はテレビ局に存在するデータを大きく「テレビ視聴データ」、「配信の視聴データ」、「業務効率をあげるデータ」の3つに分け、現時点でデータ戦略ディビジョンが取り組んでいることについてもお話しいただきました。
 
例えば、テレビの視聴データについては、インターネットに結線されたテレビがベースになりますが、その多くは機器IDやIPアドレスくらいしか取得できない非特定データです。テレビのデータから視聴者の属性を紐づけていくには、WEBからのログインなど新しい仕組みが必要となります。
 
このように今後データをどう使っていくかに大きな課題感もありつつ、分析による予測・評価のほか、将来的にはデータを活用した番組制作を視野に入れていきたいとのこと。
消費者に届ける番組、広告主へ提供する価値、そして自社業務の効率化……マスメディアならではの多方面へのデータに関する取り組み実例をうかがうことができました。

データドリブン組織の構築に向けて

マネックス証券株式会社
営業本部 企画広報部
石井 勇輝 氏
 
続いてのゲスト、マネックス証券の石井氏には、会社の経営方針と、そこにどうデータが絡んでいくのか、ということについて詳しくお話しいただきました。
 
マネックス証券では2018年10月より新しい中長期戦略である「Global Vision III」を打ち出し、すでにインハウスのデータ組織も動きだしています。ところが、石井氏によると、会社の目指す方向性とデータ組織のあり方には改善すべき点があると言います。
 
金融というビジネスは、どうしてもプロダクト・アウト、商品・サービスが先にありきで、それをお客さまに押し付ける嫌いがあります。新しい技術が、様々な新サービスを可能にしている今だからこそ、何ができるか?ではなく何が望まれているか?を、社員ひとりひとりが想像することが大切だと考えています。(「Global Vision Ⅲ」
 
こうした経営指針に対して、石井氏は「エビデンス・ベースでの方針決定を行う、データ・ドリブンな組織をつくる」こと、そして、「個のデータを活用し、お客さまのセグメントごとに最大数のサービスを当てていく」ことに、データ部門は寄与していくべきだと考えます。
現状マネックス証券のデータ部門は、営業部のマーケティング部内、つまり業務部門の下にある状況です。そのためどうしても運営業務でのデータ利用が多く、データを活用してのサービス開発・施策検討など、よりクリエイティブな場面でのデータ活用に割く時間はまだまだ足りないと言います。
 
実際に、データ部門が携わった課題解決プロジェクトとして、会社の収益構造に着目し、より安定した基盤となるストック収益の増大について取り組んだ例があります。これは各サービスでのセグメント内の属性を定義し、属性ごとに施策を検討、運用まで落とし込む……という構想でしたが、現状のリソースに対しあまりにも工数が大きく、現時点での運用はまだ難しいことがわかったと言います。
 
その経験を経て、データ・ドリブン組織の構築をスピードアップしなければならないという課題感を強くした石井氏。まずは短期の結果が出るもの、特に経営層目線から落としたプロジェクトに注力するという方向に切り替えたそうです。
 
石井氏の描く、「データに基づいた方針決定を行い、個のデータを活用することで最大数単位のサービスを提供する」ことは、すなわちマネックス証券の目指す「お客様本位な業務運営」につながります。
 
データ・ドリブンな組織をつくるには、社内でのデータの立ち位置を上げていくことが必要不可欠です。その前提ともなるのが、講演のなかでも何度か聞かれた「経営層に刺さる結果を出す」ということ。これは、インハウスのデータ部門がそのポテンシャルを最大限発揮するための、業種の枠を超えて共通する課題感なのではないでしょうか。

パルコグループならではの顧客体験によるLTV向上に向けて

株式会社パルコ
グループデジタル推進室 デジタル推進担当
業務課長 安藤 彩子 氏

 

丸の内アナリティクスの本会(事業会社の分析官のみで構成される研究会)にもご参加いただいている株式会社パルコの安藤氏からは、今現在パルコが取り組んでいるCRM(顧客関係性マネジメント)施策についてお話いただきました。
 
安藤氏はもともとCRMに長く携わり、プランニングを軸としたキャリアを築いてきた方。 どちらかと言えばマーケティングに寄った経歴をお持ちですが、サービスの設計にあたってその元となるデータ分析は自分でやるようになったと言います。
 
グループデジタル推進室というパルコのデジタル施策を一手に担う部署では、「世界で一番楽しい店舗でのエンターテイメント×カルチャー×ショッピング体験を提供する」という執務ビジョンのもと、現在は、利用者とパルコの関係性を構築することに力を入れ始めているそう。
 
そこでメインのコミュニケーションチャネルとして展開されているのがパルコ公式スマホアプリ「POCKET PARCO」。利用者にパルコでのショッピングや体験をより楽しんでいただくことを目的とし、店舗の内外で使えるようさまざまな機能が盛り込まれています。
 
グループデジタル推進室では、ここから取得されるカードの利用履歴やアプリのログを使って分析を行い、利用者をより理解することに活用しているとのこと。
 
ではこのチャネルを使ってどのような取り組みを行っているのか。──最新の実例ではマーケティングリサーチを活用して、顧客ピラミッドとロイヤルティの度合いによる指示要素の把握を行なったと言います。結果としてデータだけでは見えなかった現状の課題を客観視できたと安藤氏は語ります。
すでにアプリをはじめとするオムニチャネルを展開しているパルコが、ここにきてさらにCRMを加速しようとしているのは、より大きな枠組みでのファンづくりに取り組んでいるからだと言います。
 
ショッピングセンター「PARCO」だけでなく、専門店やエンタテインメントなど幅広い事業を手がける「パルコグループ」として、利用者の共感を得て、LTV(Life Time Value)を向上させていくという、会社や事業を超えた目的がそこにはあるそう。
 
これまでバラバラだった各事業・チャネルのデータを統合していき、利用者側に対しても触れるもの・体験するものを一元化させていく。それによって、グループ全体として顧客との接点を増やし、また、そこで得たデータをクロスチャネルで活用することが可能になり、顧客理解をより深化させていく……というプラスのサイクルを生み出すことができます。
 
このプロジェクトのゴールは、パルコグループの価値観に共感するファンを増やしていくことにあるそうですが、それと同時に、すでに把握している「ショッピングセンターとしてのパルコの支持要素」という
独自性を、より強くしていくものだと言えるでしょう。
 
 
 

参加者の質問と回答 

日本テレビ・川越氏への質問

テレビ業界ならではの分析事例も大変興味深かったものの、参加者からは特に社内への働きかけについて関心を寄せる方が多かったようでした。
 
これまでの実績のポイントとして挙げられた、月約100時間の労働時間削減達成や、ダッシュボードの公開、キーパーソンの巻き込み方などについて、参加者の皆さまからいただいた質問と川越氏からの回答を紹介します。
 
Q:データ戦略Divの予算はどのようにして決められているのですか?コストの積み上げ、もしくはR&D費として売り上げのX%など、お判りでしたらご教示頂けますでしょうか。
R&D費になります。 各部門から2,3名ずつ集まってデータ活用に関する議論をする会議体が立ち上がり、その際に各部門と必要性を議論するわけですが、その議論の際に必要最小限の金額規模で取り組もうという結論になり、答申して予算を獲得した感じです。
 
Q:ダッシュボードはどのくらいまで広められておられますか?
質問の意図が違っているかも知れませんがアカウント数は100名程度でインターネット関連の自部門の利用は5割。その他部門では8部門程度利用してますが、その8部門では2名~10名程度が利用しています。アカウントを発行した人のうち、5割が1週間以内にログインしてました。 これが多いか少ないかはわかりませんが、現状ではまずまずかなと思っています。 利用者にイメージしてもらうために簡易なダッシュボードも量産したので、今後は不要なダッシュボードを削除して質を上げようと思っています。
 
Q:100時間/月の削減とありましたが、削減した時間で何をしましたか?残業がなくなったとかですか?
新しいことができるようになったことと、定時で帰れる率があがったようです。
 
Q:キーマンを巻き込んだというお話がありましたがどのような手段で巻き込みましたか?
結論から言えばデータに興味がある人がたまたまいた、ということが大きいと思います。 興味がある人をいかに捕まえるかは大事だと思っていましたし、データに興味のある方が求めているものに対して、アウトプットとして早く出すことは意識していました。基本的には社内に対して行なってきたことを、個人に対しても行なってきたという感覚です。 一緒に新しいことをやろうとしている人も不安なはずなので、そういう意味でもスピード感は大事でした。 また、データに関する取組みへの理解──社内の基幹システムのようなものとはまた違うもので、あくまでもトライアルなのだということを説明し、その上で一緒に物事を進めてもらうようにしていました。

マネックス証券・石井氏への質問

会社の経営戦略から現在のデータ部門の課題を落とし込み、運用中の取組みのほか、リソースの問題から一度ストップしたプロジェクトについてまで詳しくお話しいただいた石井氏。
事例についての具体的な内容を中心に質問が集まりました。
 
Q:外部DMPは何を使用していますか?
現在外部DMPは基本使用しておらず、オンプレミスでマーケティング用DBを保有し、保守、運用、開発を行っております。 ただ、昨今のオープンDMPを使用したソリューションの高度化と、各種ソースの異なるデータの統合ツールの普及に伴い、高度な分析結果の社内共有という意味でも導入は前向きに検討しております。
 
Q:収益または費用削減について、何パーセントくらいの改善がデータで可能というポテンシャルがあると考えていますか?
具体的な数値は申し上げられませんが、広宣費に対する獲得顧客の収益割合で考えて、10%~20%の改善が可能ではないかと考えております。
 
Q:収益構造分析からの施策実行というのは、経営系の部門と仕事がダブりそうな感じがしましたが、そこはどう調整されましたか?それとも、そこ含めて営業本部のミッションという形でしたか?
収益構造分析から入ったプロジェクトは、取締役執行役員である営業本部長をトップに始動し、経営層間で共有されている経営課題の中からまだどの部門でも手が付いておらず、かつ営業施策に落とし込めるものを選んだ形になります。 経営系の部門にもその取組み内容を報告しておりますので、部門を跨いだダブりは発生せず、結果的に経営系部門の領域にも足を突っ込む形にはなります。そこも含めて営業本部のミッションとして営業施策まで落とし込もうとしております。
 

パルコ・安藤氏への質問

安藤氏には、マーケティングリサーチと自社の実績データを活用して顧客理解を深めたという最新実例から、パルコグループとしての大きな構想までお話しいただきました。
CRMに特化した実例をあげていただいたこともあり、参加者からはより具体的な質問が目立ちました。
 
Q:収益または費用削減について、何パーセントくらいの改善がCRMで可能というポテンシャルがあると考えていますか?
CRMの規模や業種・業態により異なるため一概には申し上げられませんが、 簡易的には、対象者・非対象者の利益率と比率の現状と目標値を比較することで利益改善の規模を見ることができると考えています。
 
Q:アプリにカード情報を登録するとのことですが、いわゆるカード情報非保持化の実行計画で問題になったりしないのでしょうか?
アプリに登録いただくクレジットカード番号は、クレジットの決済処理を行っているサービスにて保管しており、当社のアプリサーバでは保持しておりません。
 
Q:DAPCを8の字に描く理由は何でしょうか?(サイクルではない深い理由がありそうで。)
資料の表記上8の字にしているだけでサイクルでも同じことです。
 
Q:分析結果のインサイトを提供するときに、一歩間違えると推進部の人が「命令されてる感」を受けて衝突するなんてことも起きそうな気がしましたが、伝え方などで工夫されてる事とかありますか?
分析をするとデータからはどうしても好ましくない事実がでることもあります。それをただマイナスとして伝えることは極力しないように心がけています。 あくまでも分析結果からの示唆・提案を提供することと、対面する部署とは同じ目的を持ち協業であるスタンスでいることを心がけています。課題を伝える際は解決案とその効果なども合わせて提示します。

Q:マーケティングリサーチを用いた特徴からのインサイトの出し方、それを活かす施策までの思考プロセスはどの様な内容かお教え願えますでしょうか。
シンプルにいうと、分析結果からまず事実を見つけることと、その事実の背景・ストーリーを考察することによりインサイトを発見します。 リサーチ結果だけを見ているのではなく、ビジネス全体の理解やほかのデータ等からの顧客理解があっての考察になります。

Q:LTVの最大化を軸に考えた場合、単年ごとの売上が必ずしも最大にはならないケースも出てくると思っています。その際に会社内やテナントさんからの抵抗勢力も出てくるのかなと思いましたが、そういうことはありますか? あれば、どのように対処していますか?
販売促進=短期的売上、CRM=中長期的利益と自分は考えていますが、それは片輪でなく両輪であることを社内で理解してもらうことは重要です。 時に販売促進とCRMは相反することもあり得るので、両輪走行が可能な全体を俯瞰したマーケティングのプランのなかで、それぞれがプランニングされることが望ましいと考えています。
 
Q:コンテンツ交流施策ためのクラスタ分析と効果測定は、ユニークなIDで一元化されたデータでおこなうのでしょうか?
コンテンツ交流施策は、必ずしも双方のIDを一元化して共通顧客が発見とできないと実施できないことはなく、クラスタ分析を使って同じ特徴を持つクラスタを発見できればID一元化がされていなくても実施できるだろうと考えています。
 
 
 
いかがでしょうか。
今回のバンビーノも、業種もそれぞれ異なる3名のゲストから、実践的な取り組みと今後の大きな構想まで、大変示唆に富んだお話を伺うことができました。
 
次回の丸の内アナリティクスバンビーノは8月に開催予定! テーマや登壇者など、開催情報はconnpassにて更新しますので、まだフォローをしていない方はこの機会にぜひご登録ください。

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