INTERVIEW

2019.08.29

データで接客を拡張する、進化し続けるPARCOのデジタル施策とは

株式会社パルコ林直孝氏 氏

丸の内アナリティクスのエバンジェリスト・河出奈都美によるインタビュー第3弾。
ファッションビルを国内外に展開する株式会社パルコの執行役であり、社団法人丸の内アナリティクス理事の林直孝さんと、同じくグループデジタル推進室でデータ分析施策を担当する高森敦史さんにお話を伺いました。

今やどの業界においてもビジネスとデジタル施策とは切り離して考えることができません。特に小売業界は、ECサイトの台頭に伴い、店舗のあり方自体を再定義しなければならないという課題に直面しています。

そんな中、より良い顧客体験を模索し進化を続けているのが、国内外にショッピングセンターを展開する株式会社パルコです。

今年の秋にはいよいよ渋谷PARCOがリニューアルオープンし、新たな局面を迎えるパルコのこれまでとこれからについてお話を伺いました。

これまでの取り組みから振り返るパルコデジタル施策の軸

パルコさんは店舗経営におけるデジタル施策の先駆者というイメージが強いですが、本格的にデジタル施策に乗り出したのはいつ頃になるのでしょうか。

林:

パルコの社内でデジタル専門チームができたのは2013年までさかのぼります。

その当時すでに、ECサイトで商品を見たのをきっかけにリアルの店舗に行く、あるいは反対にリアルの店舗で気になったものをネットで注文する、というように、消費者の購買行動に変化が見られるようになっていました。

パルコは実店舗を持つショッピングセンターですから、店舗の営業時間以外はお客様とのコミュニケーションが途切れてしまう。そこで、リアルなチャネルだけでなくデジタルにも取り組もうと、いわゆるオムニチャネル化への取り組みを始めたのです。

店舗の営業時間外でもオンラインで顧客とつながろうとしたわけですね。

林:

これまで新しいテクノロジーは、人間の能力を拡張するために使われてきました。デジタル化もそれと同じで、パルコにおいては「接客を拡張する」ことを主軸として、デジタルテクノロジーを取り入れてきたのです。

普通の小売店であれば「商品」がコミュニケーションの中心になりますが、パルコはあくまでもショッピングセンターで、商品はテナントショップのもの。そのため、パルコのオムニチャネルではショップスタッフの「接客」を真ん中に据えました。

具体的にどのようなことから始められたのでしょうか。

林:

パルコのWebサイト上にショップブログを設置して、テナントのスタッフが自由に情報発信できる環境づくりを進めました。

当時の潮流として、インターネットメディアやソーシャルメディアが普及し、メディアを介した消費者とのコミュニケーションのありかたが変容し始めていました。
そうした背景もあり、外部のメディアだけに頼るのではなく、パルコはパルコのオンラインメディアを持って、独自のチャネルでお客様とコミュニケーションを取っていくべきだと考えたのです。

ただ、パルコの店舗が主役となって発信したとしても、商品はテナントショップのものですから、商品の数も情報量も限られたものしか出せません。テナントショップのスタッフが主体となって自ら発信するプラットフォームであることが重要です。

林:

ところが、テナントに「オムニチャネルを始めます」と言っても今ひとつ理解してもらえない。

そこで「24時間パルコ」というコンセプトを打ち出し、オンライン上にプラットフォームを作って、そこでもお客様とコミュニケーションを取れますよ、というメッセージを伝えていくことにしました。

パルコには全国で3,000店ほどのテナントショップが入っていますが、全国の店舗に、ブログだけでなく、TwitterやFacebook、LINEなどのSNSも駆使したコミュニケーションがこれからは必要だ、ということを説明してまわりましたね。

実店舗でより接客をしやすくするための創意工夫を重ねてきたのと同じように、オンラインでもまずはテナントショップにとって接客しやすいサービスを作っていこうと考えました。

デジタル専門チームができた翌年2014年の春にはECサイトをオープンしていらっしゃいます。

林:

はい、2014年5月にECサイトである『カエルパルコ(現:PARCO ONLINE STORE)』をローンチしました。

ブログでのオンラインコミュニケーションが活性化されるようになると、今度は地方のお客様から「ブログに掲載された商品を購入できないか?」というお問合せをいただくようになったんです。リクエストにお応えして、現金書留や振込でお支払いいただき、商品を発送させていただく……というようなこともありました。

すでにその時点で、ショップブログというネット上でのコミュニケーションが、「購買」というアクションに直接つながっていたわけですね。そこで、ショップブログにカートボタンや取り置き機能を搭載して、ECサービスとして進化させたのです。

アプリで進む双方向のコミュニケーションチャネル

林:

その次に出したのが、公式スマートフォンアプリ『POCKET PARCO(以下、ポケットパルコ)』です。
これはお客様がパルコにいるときも、パルコでのお買い物が終わった後も、また再びパルコに来る前にも楽しんでいただけることを目的としたサービスです。

アプリではどのようなことができるのでしょうか。

高森:

ポケットパルコには、店舗の内外で使っていただけるさまざまな機能を盛り込んでいます。館内のチェックイン機能、「ウォーキングコイン」という店内を一定数歩くとコインが貯まる機能、お買い物後のショップ評価や、気に入った商品のクリップ機能などがあります。

つまり、パルコがお客様へ一方的にサービスを提供して終わりではなく、お客様からなんらかのリアクションを得られるような仕組みになっているのです。利用していただくことで、データが蓄積され、それを分析しサービスの改善に活用していく──双方向のコミュニケーションが可能になっています。

アプリを活用した実際のデータ活用事例など教えていただけますか。

高森:

まず前提としてポケットパルコでは、登録したクレジットカードとポケットパルコIDを紐づけているので、カードが利用されると、どのIDのお客様が・いつ・どのショップで購入したかのデータを取得できるようになっています。

同じお客様が館内の複数ショップで購入することを「買い回り」と言いますが、この買い回りデータなど様々なデータを蓄積することで、今度はこれを元に、どのお客様にどのようなショップのブログ記事をレコメンドしたらいいのかという分析を、AIを活用して行っています。

また、先ほどウォーキングコインの機能を挙げましたが、これは色々なショップや商品に出会っていただくことを目的につくられたものです。

すでに目当てのショップがある方は、館内をあちこち見て回らない傾向があります。しかし私たちとしては、せっかくお買い物に来ていただいたのであれば、新しいお店や知らなかった商品に出会っていただきたい。

そこで、アプリをスマホの歩数計と連携させて、アプリでチェックイン後、パルコの館内を歩くと歩数をカウントし、500歩でコインと呼ばれるポイントが発生する仕組みを提供しました。実際にウォーキングコイン利用者のデータを見ると、この機能を使われる方のほうが使用しない方よりも、買い回り率、購入額ともに上がるということがわかりました。

現在では、アプリで店舗にチェックインした方の6割ほどがウォーキングコインをご利用くださるようになっていて、効果が上がってきているという実感がありますね。

次にパルコが目指すこと──オンライン・オフラインが融合した店舗の姿

パルコさんは実店舗にも新しいテクノロジーを積極的に導入されている印象があります。そのあたりも詳しくお聞きできますか?

林:

今に至る5年ほどは、どうやってネットに接客のプラットフォームを作り上げるかを中心に取り組んできました。推進していくなかで、実店舗側はデジタル化がそこまで進んでいないという課題に気がついたんです。

Eコマースの事業では、お客様の購買行動を全てデータで理解することができます。つまり、どのページから入って、どのページをご覧になって購買をしたか、またはページのどこで離脱したか、ということが全てデータ化されています。

そのデータをベースにサイトの改善を行うことができるわけですが、パルコのような実際の店舗ではそれがわかりません。

ただ、この数年でテクノロジーも飛躍的に進化しました。IoTのビジネス活用など、店舗をデジタル化する手段が増えてきたように思います。

林:

例えば、上野の店舗「PARCO_ya(パルコヤ)」にはショップごとに複数のカメラを設置していますが、最近は画像認識技術が上がり、来店された方の性別やおおよその年代層が推測できるようになっています。集めたデータをもとに、来店者数の把握、曜日・時間帯による来店者の属性の変化などを分析できるようになりました。

また、これまでお客様が何を買われたかということは、テナントショップ側では把握していても、パルコ側では把握できていませんでした。様々な技術を組み合わせることで、パルコの方でもデジタル化された購買データを把握できるようになりつつあります。

こうして店頭の様々なデータをデジタル化させ、さらにアプリやWebサイト上のデータと組み合わせていくことで、お客様をより深く理解できるようになります。

お客様を理解する。

林:

はい。パルコにとってデータとはお客様を理解し、より良い買い物体験を提供していくための手段です。

アプリでは、お客様の様々なアクションがデータとして蓄積されてきていますが、それはあくまでもアプリをご利用いただいているお客様のデータです。店頭のデジタル化は、アプリをご利用されていないお客様のデータが不足していることに対してのひとつの解決策であるともいえます。

店頭とオンラインで獲得したデータを正しく・早く分析し、その結果に対して早くアクションを起こす……そういったサイクルの設計を今構築している最中です。

今まで「みんな」という大きな枠組みに対してお勧めしていたものを、今後は個人に対してパーソナライズして提供していく。オンラインでは当たり前に行なわれているレコメンドを実際に店頭でも可能にする。まだ実現はできていないですが、テクノロジーを導入し改良していくことで、実現の可能性が出てきたように思います。

単純に考えると、オンラインでの購買が活性化すれば、オフラインでの購買行動は減るという見方もできます。そのように両輪で進められるのはなぜでしょうか。

林:

オンライン上での接客プラットフォームを作り上げたからといって、店頭での人による接客がなくなるというわけではありません。

購買行動には、計画購買と非計画購買があります。もともと買うものを決めている計画購買のようなシーンでは、Eコマースのほうが早くて便利なケースは多いでしょう。ところが、私たちのようなショッピングセンターでは、非計画購買が多く見られます。それはやはり店頭での買い物でしか得られない体験があるからだと考えています。

Eコマースが発達するから実店舗の小売がなくなるのではなく、それぞれ価値を置く場所が異なり、今後は役割分担がより明確になっていくでしょう。

パルコが目指すのは、オンラインと実店舗が別々のプラットフォームとして存在するのではなく、オンラインと実店舗が混ざり合った「デジタルショッピングプラットフォーム」という姿です。

パルコならではの「セレンディピティ・センター」を目指して

今後小売業界はどう変化していくのか、もう少し詳しく伺えますか。

林:

役割分担が明確になっていくと言いましたが、今、小売業界で起きているチャネルのシフトはオンラインからオフラインへという一方向の変化ではなくなっています。

オンライン小売業の代表格であるAmazonが実店舗を作るなど、世界各国でさまざまなネット企業がリアルなチャネルを同時に持ち始めています。それは言わば、利用者のリアルでの行動データを獲得するために、オンラインだけではなく、オフラインにもそのデータ獲得のチャネルをシフトしているということでもあります。

反対に、私たち実店舗は、オフラインからオンラインにチャネルをシフトしていく必要がありますが、そのやり方を間違えてはいけないとは思っています。

林:

リアルチャネルにシフトするネット企業は、利用者がオンライン上でどういう買い物をしているかという顧客理解のデータをたくさん持ったうえで、参入してきています。

実店舗メインの小売業である私たちは、オフラインにお客様の行動を理解するデータがたくさん存在することを意識する必要があります。これまでは技術的に難しい点もありましたが、様々なテクノロジーを活用することで、今ようやくそうした店舗でのデータを収集できるようになってきています。

まずは店舗のデータをしっかり活用することを優先し、オフラインでもオンラインでも、良い買い物体験を提供していくことができればと思っています。

小売業界は、すでに一部で起きているように、オンラインとオフラインの区別はあまり意味がなくなっていきます。今後はその流れがより早まっていくでしょうね。

小売業界はますます競争が激しくなっていくのではと予測します。今後、パルコならではの強みをどう生かしていこうとお考えですか。

林:

リアルの店舗で提供する価値を変えていくことが必要だと考えています。

店舗では店舗でしかできない体験があります。私たちは「セレンディピティ(偶然の出会いによる幸せ)」と呼んでいますが、ショッピングセンターは買い物だけをする場所ではなく、自分では気づかなかったけれど欲しかったものを見つけることができる、新しい体験ができる……そういう場所を次に目指していくべきでしょう。

そして、「偶然の出会い」は単なる偶然としてあるのではなく、それをさりげなくお客様に気づいていただく、提供できるという仕組みをパルコはつくっていきたいと考えています。

今、お客様を理解するためのデータが蓄積されてきて、店舗側もデジタル化が進むなかで、そのような構想が現実的なものとして考えられるようになってきました。

パルコは、リアルなショッピングの場がより楽しくなる「セレンディピティ・センター」を目指して、他社さんよりも早く、それを提供できる組織でありたいと思っています。

具体的になにかこれから取り組みたいことはありますか?

林:

VRやAR、MRを使って、買い物体験をアップデートしたり、店舗の風景を作り出したり、いまとは全く異なる店頭体験には取り組んでいきたいですね。

デジタル化を進めると「人の接客はいらなくなるのか?」と言われることもありますが、デジタル化が進むからこそ、より一層、人による接客の価値が際立つと思っています。楽しい買い物体験には、誰かに新しいものを勧めてもらうとか、「似合ってますよ」と言ってもらうとか、そうした人の温度感が欠かせないですし、それこそが実店舗の魅力です。

テナントさんがより接客に力を入れていけるように、機械ができる作業は機械にまかせる。人と機械でそれぞれが得意なことに注力するということを前提に、テクノロジーは活用していきたいですね。

今年の秋に渋谷PARCOがリニューアルオープンしますが、これまで行ってきたことをアップデートしながら、新しいテクノロジーにも果敢にチャレンジして、より良い買い物体験をお客様に提供できればと思っています。

林直孝氏 氏 PROFILE

林直孝氏
 株式会社パルコ 執行役 グループデジタル推進室担当
 株式会社パルコデジタルマーケティング 取締役
 社団法人丸の内アナリティクス 理事

 パルコ入社後、全国の店舗、本部及び、Web事業を行う関連会社 株式会社パルコ・シティ(現 株式会社パルコデジタルマーケティング)を歴任。 店舗のICT活用やハウスカードとスマホアプリを連携した個客マーケティングを推進する「WEB/マーケティング部」等を担当。 2017年より、新設された「グループICT戦略室」(2019年グループデジタル推進室に改称)でパルコグループ各事業のオムニチャル化、ICTを活用したビジネスマネジメント改革を推進。


高森敦史氏
 株式会社パルコ グループデジタル推進室デジタル推進担当

 店舗事業営業担当者向けBIシステムやPOCKET PARCOユーザに向けたレコメンドシステムの開発運用を担当。2017年Tableau Japan主催集中育成プログラム「Tableau DATA Saber Boot Camp」修了。

インタビュー:河出奈都美
撮影:久保田敦
構成・文:ナガタハルカ