INTERVIEW

2018.09.15

大切なのは生きているうちに何を成したいか。
ゴールから逆算して自分の価値を生み出す

C Channel森川 亮氏

丸の内アナリティクスのエバンジェリストを務める河出奈都美が、第一線を走るビジネスマンにインタビューを行います。第一回目はC Channel代表の森川亮さんにお話を伺いました。(取材日:2018年9月15日)

日本テレビ、ソニー、LINEというキャリアの中で、さまざまなIT関連事業を立ち上げてきた森川さん。2015年にはLINEの代表を退き、女性向けの動画メディアである『C CHANNEL』を立ち上げました。

“ベンチャー企業を音楽で例えるならば、ジャズのセッションのようなもの。
現時点の状況にあわせてアドリブやアレンジを加えて、変化させていく。”

森川さんはそう語ります。

絶えずイノベーティブな事業に挑戦し続けてきた森川さんが考える会社の存在意義とは。
そして、テクノロジーの発展が急速に進む現代のなかで、私たちはどう生きればいいのか。お話を伺いました。

日本を古代ギリシャのようにしてはならない。C Channel立ち上げの背景にあった危機感

まず、LINEの代表を務められていた森川さんがなぜC Channelを起業されたのか。そのことについてお伺いできますか。

森川:

これまで様々な事業の立ち上げを経験してきて、起業家として日本に貢献したい、という思いがありました。

50歳を間近にして、自分の人生を振り返った時に、娘の世代が幸せになれる社会ってどんなものか考えたんです。それには、もっと世界に向けて日本の存在意義を示していくことが必要じゃないかと。

C Channelは、そうした自分が作りたい社会像から逆算して、自分にできることを考えた結果ですね。

C Channelのビジョンは、まさしく「日本を発信し元気にする」というものですね。そのように思われるようになったきっかけは何だったのでしょうか。

森川:

LINEで代表を務めていた時に、ある危機感を抱いたのがきっかけです。

LINEのようなグローバル企業だと、色々な国の人と仕事をするし、社員も半分以上は外国人です。

アジアでは戦争の歴史に対する記憶も色濃く、度々そういったことに言及されることもありました。スポーツで日韓戦や日中戦が開催されれば、社内で揉め事が起こることもあり、日本に対してあまり良いイメージを抱かれているとは感じませんでした。

よく日本のカルチャーが世界に注目されている……と言及されることもありますが、東南アジアでは韓国の影響力の方が圧倒的に大きい。

そういう中で働いていると、そもそも世界で日本人や日本の企業は必要とされているのか?と疑問を感じるわけです。

森川:

このままでは日本の存在感がなくなってしまう。

日本固有の文化がまるで古代ギリシャのように消えてしまうのではないか……。

そういう危機感があって、この状況を変えたいと思いました。

そのためには、日本人が世界に出て活躍することももちろん必要ですが、日本の良いイメージを発信することも大切です。
まずはアジアでそういったイメージを創っていこうと思いました。

その中でなぜ女性向けの動画メディアを選ばれたのでしょうか。

森川:

日本には多くの課題がありますから、最初はさまざまな業界のリサーチを行いました。テクノロジーと組み合わせて、どう社会を変革できるか、と。

参入障壁が比較的高くない所から、変革を起こそうと思って選んだのがメディア事業です。
メディア事業も閉鎖的な面がありますから、メディア産業そのものが社会に貢献していく流れをつくっていきたいという思いもありました。

若い女性をメインターゲットにしたのは、テクノロジーが一般化する中で、彼女たちがもっとも一番新しいものを受け入れやすい層だからです。

どんなに良いサービスをつくっても、新しいものに否定的な人に提供しても伸びませんから。

とはいえ、創業当時の2015年は、動画メディアがまだ一般的でなかったと思います。事業を成長させていくうえで大変だったことは何でしょうか。

森川:

動画でなくてはいけないものは何なのか、ということは常に考えていますね。

当時は動画を撮ること自体がまだ一般的ではなかったので、コンテンツについては試行錯誤の連続でした。
お店の情報や旅行情報などを提供してみたり、動画でファッション雑誌の置きかえを試みたり……。

結局、写真で見たほうが分かりやすいニュース情報や、世界観を提供するイメージ動画のようなものは、若い女性にはあまり必要とされていないということが分かりました。

それで、HOW TO動画など学びになるものが主軸になっています。

2018年は中国へも進出されました。今後、C Channelが目指していくメディア像のようなものはありますか?

森川:

立ち上げから3年が経過して、動画メディアの他に、出演するインフルエンサーの育成や、それに連動するファッションブランドの展開など、事業が多角化してきています。

C Channelはメディアという枠を越えて、ミレニアル世代の女性向けマーケティングカンパニーに変わりつつあります。アジアの人たちが日本の商品に憧れて真似したくなる……そういう文化をこれからも発信していきたいですね。

データサイエンスはクリエイティブ領域の仕事

メディア事業といえば、レコメンドなどデータサイエンスも重要な役割を担うように思います。データサイエンティストの業種横断団体である「丸の内アナリティクス」のエバンジェリストとして、そのあたりもぜひ伺いたいのですが。

森川:

そうですね。やはりマーケットが何を望んでいるかということが重要なので、データを見ていくことも必要です。

ただ、女性向けの商品というのは数字だけでなく、感性的な部分も必要になってきます。

データだけに頼ってしまうと、一番データを持っているGoogleのような巨大企業にはどうしても敵わないですから、感性など人の力を使って勝負したいと思っています。

巷では「データさえあればなんとかなる」という神話もありますが……。

森川:

それは違いますよね。

データを事業に活かしていくには、どう活かしていくかという仮説が必要であり、そういう意味では非常にクリエイティブな側面もあります。
それがないままデータだけ集めても仕方ないのではないでしょうか。

データサイエンスというのはエンジニアリングの領域ですけれど、最終的には人間が求めるものはなにか、という本質的なものを求めていくことだと感じています。

事業で世の中を変えていく、そのことに会社の存在価値がある

森川さんのお話を聞いていると、自分のことよりも「社会が何を望んでいるか」ということに重きを置いていらっしゃるような気がします。

森川:

やはり「世の中を幸せにしたい」というのが本質的にあります。
自分だけが幸せになれたとしても、社会全体が不幸だとまわりの人も不幸になってしまうかもしれないじゃないですか。

そうはいっても、それを実行に移せる人は多くありません。

森川:

50代にもなると、死ぬ前に社会に何か残したい……何か人生の総括のような気持ちになるんです。きっと私以外でも、多くの人がそうだと思いますよ。

ただ、確かに自分に元気がないと、思っているだけで終わってしまいますから。元気なうちに、自分が意義を感じることをできるというのは幸せなことですね。

色々な会社で事業を立ち上げてきて思うのは、世の中を変えていくために、会社の価値をどうやって事業に転換していくかということ。そこに会社の存在意義があるように思っています。

特にベンチャーの場合は、大企業と違ってリソースもブランドも足りていない。だからこそ、チャレンジ精神やスピード感をもって実行に移していかねばなりません。

音楽に例えれば、ベンチャーはジャズのようなもの。譜面通りに演奏しなければ指揮者に怒られるということはありません。むしろその時の状況に合わせて自らが変化いかねばなりません。
今がどういうステージでどうあるべきか、ということは常に考えていることですね。

何のために生きるのか。自分の存在意義を示す、それが仕事

森川さんが20代の頃は、どんなことを考えて仕事されていたのでしょうか。

森川:

20代の頃は日本テレビに勤めていて、結構な年俸をいただいていたので、「自分ってすごいのかな?」と漠然と思い込んでいたんです。

ところがある日、年俸査定サイトを見つけて試しにやってみたら、当時の年俸の半額以下だった。

一体どうしてなんだろう……と思って、いろんな人に話を聞いてみたら、現時点で会社が儲かっていることによって給料が高いのと、実際に社会において価値を提供できているかどうかは違う、ということが分かったんです。

今もらっている給料にあぐらをかくのではなく、その人が何に時間をかけたか、それによってその人の価値が決まる。

そういうところに投資をしようと思って、本気で勉強するようになりました。

社会において自分の価値を高めていくにはどうしたらいいのでしょうか。

森川:

どの産業でも、どんなことにでも対応できるというのは結構難しいことですよね。そして、そういうことは、むしろ必要ないと思っています。

それよりもまず大切なのは、自分の人生について深く考えることではないでしょうか。

自分の人生のゴールを決めて、それを叶えるために、今なにをすべきか逆算する。そして、そこに集中していくべきだと思います。

漠然と幸せになりたいと思っていても、自分にとっての幸せが見えなければ、幸せにはなれないでしょう?

そうはいってもなかなか答えの出ない問いのような気もします。

森川:

1年後、もし自分が死ぬとなったときにやること。

それが本当にやりたいことだと思います。

何のためにやっているかわからないことに時間を浪費するのではなく、それぞれの人生のゴールにつながることに特化した方が、圧倒的に自分への投資になりますよね。

だから、やりたいと思うことには、できるだけ早くチャレンジした方がいいです。

やってみることでまた何かが見えてくることもありますから。

森川:

よく失敗してしまったらどうしよう……と心配をする人もいますが、何をもって失敗とするのか、ですよね。

なんでもそうですが、現時点とゴールの間に、決まった地図はないわけです。
何もやらなければ変化のないままで終わってしまいますから、地図に書いていないことでもアドリブでやり続けていかねばなりません。

成功するか失敗に終わるかは、自分の行動次第です。

だからこそ、日々試行錯誤して結果的に成功につなげていけばいいのだと思います。

森川さんにとって仕事とは何でしょうか。

森川:

仕事とは自分の存在意義を示すことだと思っています。

日本では特に、決まったことをやるのが仕事と勘違いしている人が多いような気がします。

定型的な仕事は、今後AIやロボットがやってくれるようになります。
AIを使う人と、AIに使われる人。これからは二極化し、その差はどんどん大きくなっていくでしょう。

若い人たちには、自分にしかできない価値を提供し、AIを使いこなす側の人になってほしいと思います。

森川 亮氏 PROFILE

1989年筑波大学卒、日本テレビ入社。1999年、青山学院大学大学院国際政治経済学研究科修士課程を修了しMBA取得。その後ソニーに入社。 2003年ハンゲームジャパン(現LINE株式会社)入社、07年社長。2015年3月、同社代表取締役社長を退任。同年4月、C Channel株式会社代表取締役社長に就任。

インタビュー:河出奈都美
撮影:久保田敦
構成・文:ナガタハルカ
取材日:2018年9月15日